歯周病とは
歯周病という名前はよく耳にされると思いますが、どのような症状の病気かご存知でしょうか。
歯周病は、歯肉やセメント質、歯根膜、歯槽骨などの歯の周りの組織に起こる病気の総称です。
主に、歯茎が赤く腫れる、歯茎から血や膿が出る、歯茎が下に下がってくる、
歯がグラグラと動く、噛むと痛みが生じるなどの症状が挙げられます。
日本人(成人)の約8割が歯周病患者というデータもあり、とても身近な病気であることがわかります。
かつて歯周病は遺伝的なものや加齢によるもので、一度患ってしまうと治らないものだと言われてきましたが、
近年は原因や新たな治療法が明らかになり、症状の改善や予防ができるようになってきました。
いつまでも健康な歯を保つために、早期段階からの症状改善・予防対策を心がけましょう。
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歯肉
別名「歯茎(歯ぐき)とも呼ばれている箇所で、歯周組織の中で唯一目に見える部分です。 健康な歯肉は淡いピンク色をしており、遊離歯肉・付着歯肉・乳頭歯肉という部位があります。
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歯槽骨
歯槽骨とは、歯を支えている顎骨のことをいいます。歯のセメント質と結ぶ線維によって、 歯を固定しています。上顎は「海綿骨」というスポンジ状の構造になり、下顎は「皮質骨」という板状で硬い構造になっています。
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歯根膜
歯と歯槽骨を繋いでいる、噛む力に対してのクッションの役割を担う線維です。 歯周靭帯とも呼ばれており、病原菌が骨や歯の中に入らないよう防御する機能もあります。
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セメント質
セメント質は、歯根の表面を覆う歯周組織です。セメント質は、年とともに厚さが増していきます。 有細胞セメント質と無細胞セメント質に分類されます。
歯周病の種類
歯肉炎 | 歯周炎 | 咬合性外傷 |
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主に歯茎が真っ赤に腫れている状態を指します。歯肉に限局した炎症ですので、歯周組織にダメージを伴いません。 | 歯肉炎から進行したものが歯周炎です。 歯周組織である歯肉・セメント質・歯槽骨・歯根膜の深部にまで炎症が及び、徐々に破壊されていきます。 | 咬み合わせによって生じる歯周組織の傷害です。 健康な状態の歯周組織に過度な力が加わることによって生じる一次性咬合性外傷、 歯周炎により歯周組織が破壊され、歯を支える骨に傷害が起こる二次性咬合性外傷の2種類があります。 |
歯周病の原因
歯周病の原因として主にあげられることは下記の2つです。
歯周病菌による炎症
口内には、常在菌として約300~500種類の細菌が存在しています。そして、歯垢1gの中に約1億個の細菌が存在すると言われています。
その中でも歯周病菌の種類や数が多くなると、歯周病を発症する危険性が高くなります。
ただ、歯周病細菌が口内にいるからといって必ず歯周病が発症するわけではなく、遺伝的な要因(歯茎の性状・歯や顎の形や大きさ)、
身体の健康状態、局所的要因(歯科治療による詰め物、かぶせものによるもの、歯磨きの質、喫煙の有無など)によって、
発症するリスクは変わります。すべての均衡が保たれている時、口内の健康状態は続きますが、
一旦均衡が崩れてしまうと歯周病を発症し、治療し原因を取り除かないことには歯周病はどんどん重くなってしまいます。
過度な力による骨の破壊
一般的に一日のうち会話・食事などで上下の歯を噛みあわせ、接触させる時間は、トータル20分程度と言われています。
また、噛む力は食事の際に10~20kg程度です。この程度の時間や力がかかったとしても、通常骨が損傷することはありません。
しかし、睡眠中の無意識な食いしばりや歯ぎしりでは、体重と同じぐらいの力が15分程度続くと言われております。
また、噛みあわせが悪い場合は通常時よりも強い力がかかる場合があります。
どちらの場合でも、異常な力が顎骨の破壊を進行させる恐れがあります。
歯周病の症状
歯周ポケットに細菌が入り、感染がおこると、体内の防御機構が働き、 「免疫細胞」という白血球やリンパ球が全身から送られてきます。 これが原因となり、下記のようなさまざまな症状が起こります。
歯茎から出血する
健康的な歯茎は、歯ブラシがあたっても簡単に出血することはありません。
しかし、歯周病によって炎症が出ると、歯磨き程度の小さな刺激でも出血します。
これは、歯茎の免疫細胞を供給するために拡張して薄くなってしまった血管がブラシなどの刺激によって破れることにより起こります。
歯茎が赤い
歯茎の中にある血管では、免疫細胞を十分に送り込むだけの太さがないため、 一時的に血管が太くなり血流が増えます。薄いピンクに見える歯茎ですが、 歯周病で炎症が起これば血管が太く伸びることによって薄くなり、血管を流れる血液の色によって通常より赤く見えるのです。
歯茎が腫れる
歯周病の炎症が起こると、歯茎の血管から周囲の組織に免疫細胞が送り込まれていきます。こちらが浮腫(腫れ)となって現れます。
歯茎から膿が出る
歯周病によって炎症が長引くと、細菌と戦っている免疫細胞の一部が死んでしまいます。 これらが蓄積したものが膿となって歯茎から排出されます。この症状が出るということは、歯周病がある程度進行した状態といえます。
口臭がする
歯周病が進行し、中程度の状態になると、歯周病独特の臭いがするようになります。 原因としては、歯周ポケットの中の細菌である嫌気性菌という酸素を嫌う菌が代謝する過程で硫化水素・メチルメルカプタンという化合物が発生するためです。
歯がぐらぐらと動く
歯周病がさらに進行すると歯周組織が破壊されてきます。破壊ダメージが骨にまで到達すると、 歯茎が歯を支えることができなくなり、指などで簡単に歯がぐらぐらと動くようになってしまいます。
噛むと痛む
歯周病が末期になると、歯の揺れが大きくなり、通常の位置を維持することが困難になります。 本来の噛みあわせができないため、日常生活で噛むだけでも異常な方向に負荷がかかり、痛みが生じるようになります。
歯周病と全身疾患
歯周病は、これまで口内だけの病気だと考えられてきました。 しかし昨今、全身疾患との関連性が解明されてまいりました。 歯周病と関連性が高いといわれている病気について、こちらでご紹介いたします。
糖尿病
歯周病菌は、出血を伴う浮腫した歯茎より侵入します。 歯周病菌は内毒素を含むため、脂肪組織及び肝臓より 「TNF-α( 腫瘍壊死因子)」という血糖値を上昇させる因子の生産性を高めます。
脳・心血管系疾患
歯周病細菌が歯周ポケット内の更に内部である血管内に入ると、血液中にある「マクロファージ」という白血球の1種が活性化され、
血管壁に付着し、タンパク質を貪食することによって脂質を多く含んだ泡沫細胞になります。
そして泡沫細胞が変性し、細胞外脂質を生成して血管に溜まります。それにより、血流が悪化した後、
血管が閉塞、心臓の筋肉に血液が供給されなくなって心筋梗塞を起こす可能性が高まります。
さらには、頸動脈に生成された血管内壁の付着物が剥がれることによって脳動脈を詰まらせ、脳梗塞を引き起こす可能性も高まります。
早産・低体重児出産
歯周病は慢性炎症性疾患といい、多くの炎症性物質が存在しています。
妊婦は分娩より前に炎症性物質が上昇することによって、
分娩のメカニズムが働き、早産を引き起こす可能性があると考えられています。
さらには、血管内の歯周病細菌が胎盤にまで侵入し、
直接胎児に感染する可能性もあり、その場合胎児の発育不全を引き起こすことも考えられます。
歯周病の治療法~歯周外科~
健康な方の口内は、歯周ポケットが浅く、出血や腫れもなく、
レントゲンで見た際に歯周骨が平らで密度が高く、細菌を寄せつけにくい構造になっています。
それに対し、歯周病の方は歯周組織が破壊されているため、歯周ポケットは深くなり、
歯ブラシなどの少量の刺激で出血や炎症を悪化させ、歯を支えている骨は溶けていきます。
このように歯周病が進行していくと、歯周病菌が増え、炎症を庇うことで磨き残しなどが生じ、
更に悪化すると歯を失うことになりかねません。
歯周外科での歯周病の治療は、破壊されてしまった歯周組織を悪化・再発しにくい健康状態に近い環境に戻すことを目的としております。
大きく下記の2種類の治療法があります。
歯周組織再生療法
エムドゲインゲルという歯周組織再生誘導材料にて、歯周病菌によって破壊された骨や歯根膜、セメント質を可能な限り元の健康状態へ戻す手術です。
歯周病とインプラント
歯周病によって歯がぐらぐらと不安定になってしまうと、
周囲の歯への負担が大きくなり、長期間放置した場合、噛みあわせにも悪影響が及びます。
歯周病治療を行うことによって、元の健康な状態まで回復したり
、隣接する歯と固定することによって動揺を予防できる場合は問題ありませんが、
最悪の場合歯を失うと、周囲の歯への更なる負担が出てきます。
そういった場合の治療法といたしまして、インプラント治療をおすすめすることがあります。
インプラントをすることで、通常の噛みあわせの状態に回復させるだけでなく、周囲の歯の負担を軽減させることにも繋がるのです。
歯周病の中でも、噛みあわせの力によって歯周組織を破壊してしまう「咬合性外傷」では、
いかに負担を軽減する治療を施すかどうかによって、周りの歯の寿命に大きく関わります。
中でも歯列後方にある「大臼歯」は、顎の関節から近いため一番負荷がかかります。
このような歯を万が一失ってしまった場合、前方にある歯は、根が細いため噛みあわせの力に耐えることができません。
いままで負担していた以上の力が必要になると、骨が負担に耐えることができず、
残りの歯がぐらぐらになったり、歯が傾いてしまい噛みあわせが狂う可能性があります。
歯周病の治療法として、インプラント治療は有益な治療法だといえます。